デジタルな君にアナログな刻を
午前9時 電話
世の中の移り変わりの速さには、まったく驚かされる。
置きっ放しにしてしまった自転車を取りに駅まで出たついでに寄った百円ショップ。たった一日過ぎただけなのに、特設コーナーからクリスマスグッズは綺麗に取り除かれ、お正月関連商品が並ぶ。それも年が明ければ、瞬く間に豆まきやらバレンタインに取って代わるのだろう。
あまりにも性急な季節の流れについていけないわたしは、気持ちを切り替えることができないまま、和柄や両面などの折り紙を数種類買って帰った。
翌火曜日の午前8時45分。それをバッグに入れいつもより30分早く家を出た。というのも、クリスマスの飾りを開店までに片付けなければと思ったから。
通勤経路にある店先はすでにお正月感満載になっているというのに、薗部時計店だけ取り残されるわけにはいかない。
肌が凍ってしまいそうな冷たい風を、マフラーと手袋、ニットの帽子で完全防備し、自転車を飛ばす。途中、ショルダーバッグの中で携帯が鳴っているような気がしたけれど、どうせ母か充が買い物でも頼みたいのだろうと、思いっきり無視させてもった。本当に必要なら、あとでメールでも送ってくるに違いない。
ビルの自転車置き場からお店までの間に携帯を取り出し、一応着信を確認する。
あれ、店長からだ。かけ直した方がいいのかな?
なんとなく躊躇っているうちに、店の裏口に着いてしまっていた。
いつも通りに鍵を開けようとして、セキュリティが解除されていることに気がつく。
泥棒?そんなわけないか。
念のためそーっとドアを開け、首だけを中に入れて「おはようございます」と大声をかけてみた。すると程なく、開けっ放しになっていた店舗に続く扉から店長の顔が覗く。
一瞬、びっくりしたように目を瞠った後、くしゃりと表情が崩れた。
「おはよう、円ちゃん」
「……おはようございます」
安心と気まずさとが入り交じる。目を合わせられないまま、荷物を入れるためいそいそとロッカーに手をかけたけれど、鍵がかかっているわけじゃないのに扉が開かない。
「すみません。手をどけてください」
店長がわたしの後ろから伸ばした右手で、扉を押さえていたのだ。
「今朝はやけに早いんだね。電話したけど間に合わなかった」
わたしの訴えを無視して背後から話しかけてくる。それをいうなら店長の方だ。いつもの出勤時間より一時間は早いのではないか。
「気づかなくてすみません。自転車に乗っていたので。何の用事でしたか?」
まるでロッカーに話しかけているみたいだけれど、今振り返ることはできなかった。
「うん。今日は店を休みにするっていう連絡。せっかく来てもらって悪いんだけど……」
「もしかして、左手の具合が悪くなったんですかっ!?」
バッグのストラップを両手で握りしめる。腫れが引かないとか、やっぱり折れていたとか。悪い予想が頭に浮かぶ。
置きっ放しにしてしまった自転車を取りに駅まで出たついでに寄った百円ショップ。たった一日過ぎただけなのに、特設コーナーからクリスマスグッズは綺麗に取り除かれ、お正月関連商品が並ぶ。それも年が明ければ、瞬く間に豆まきやらバレンタインに取って代わるのだろう。
あまりにも性急な季節の流れについていけないわたしは、気持ちを切り替えることができないまま、和柄や両面などの折り紙を数種類買って帰った。
翌火曜日の午前8時45分。それをバッグに入れいつもより30分早く家を出た。というのも、クリスマスの飾りを開店までに片付けなければと思ったから。
通勤経路にある店先はすでにお正月感満載になっているというのに、薗部時計店だけ取り残されるわけにはいかない。
肌が凍ってしまいそうな冷たい風を、マフラーと手袋、ニットの帽子で完全防備し、自転車を飛ばす。途中、ショルダーバッグの中で携帯が鳴っているような気がしたけれど、どうせ母か充が買い物でも頼みたいのだろうと、思いっきり無視させてもった。本当に必要なら、あとでメールでも送ってくるに違いない。
ビルの自転車置き場からお店までの間に携帯を取り出し、一応着信を確認する。
あれ、店長からだ。かけ直した方がいいのかな?
なんとなく躊躇っているうちに、店の裏口に着いてしまっていた。
いつも通りに鍵を開けようとして、セキュリティが解除されていることに気がつく。
泥棒?そんなわけないか。
念のためそーっとドアを開け、首だけを中に入れて「おはようございます」と大声をかけてみた。すると程なく、開けっ放しになっていた店舗に続く扉から店長の顔が覗く。
一瞬、びっくりしたように目を瞠った後、くしゃりと表情が崩れた。
「おはよう、円ちゃん」
「……おはようございます」
安心と気まずさとが入り交じる。目を合わせられないまま、荷物を入れるためいそいそとロッカーに手をかけたけれど、鍵がかかっているわけじゃないのに扉が開かない。
「すみません。手をどけてください」
店長がわたしの後ろから伸ばした右手で、扉を押さえていたのだ。
「今朝はやけに早いんだね。電話したけど間に合わなかった」
わたしの訴えを無視して背後から話しかけてくる。それをいうなら店長の方だ。いつもの出勤時間より一時間は早いのではないか。
「気づかなくてすみません。自転車に乗っていたので。何の用事でしたか?」
まるでロッカーに話しかけているみたいだけれど、今振り返ることはできなかった。
「うん。今日は店を休みにするっていう連絡。せっかく来てもらって悪いんだけど……」
「もしかして、左手の具合が悪くなったんですかっ!?」
バッグのストラップを両手で握りしめる。腫れが引かないとか、やっぱり折れていたとか。悪い予想が頭に浮かぶ。