デジタルな君にアナログな刻を
「自分も経営する立場になって、少しは融通を利かせるとか、小狡いことを覚えたかと思ったけど、そうでもなさそうだね」

「店長は、いい加減で適当ですよ?だからお店だってこんな状態で、借金まで……」

慌てて滑りすぎた口を閉じる。いくら吞気な店長でも、元同僚に経営事情を知られたくはないのだろう。

「借金?」

訝しげに眉を曇らせる立河さん。ああ、間に合わなかった。もう、こうなったら思い切って訊いてしまえっ!

「どうして店長は、税理士を辞めてしまったんですか?そっちの方が仕事も安定してるし、きっと収入もいいですよね。もしかして、仕事が適当でクビになったんですか?」

「この店の経営状態までは知らないけれど……。税理士としての彼の仕事は、とても丁寧で正確だったよ」

時計以外のことでも?返ってきた答えが意外なもので、目を瞬かせる。

「だけどあいつ、さっきも言ったようにちょっと要領が悪くてね。細かいところにまで気を配りすぎて時間がかかったり、白黒をハッキリ付けたがったりするのが難点といえば、難点かな」

立河さんは長い足を組み替えて、背もたれに寄りかかる。

「守秘義務もあるから詳しくは話せないけれど。彼の担当していたある会社の社長に、無理難題をふっかけられたことがあったんだ。場合によっては、脱税と指摘されかねないギリギリのもので。だけど多かれ少なかれ、法律の穴をかいくぐってやっている人もいないわけじゃない。その程度のものだったんだけど、薗部にとっては絶対に許せないことで、当然突っぱねた。それが事務所内で問題になって」

「でも、脱税しようとする方が悪いんですよね」

正しいことをしようとして解雇されたの?そんなの理不尽だ。不満が顔に表れていたようで、立河さんは苦笑いで首を振って否定した。

「俺ももう少し穏便に断ればとは思ったけど、もちろん薗部はなにも悪くない。だけど、そのクライアントがそこそこ大きな会社でね。系列会社もその事務所で任されていたんだけど、逆ギレした社長がすべて取り止めるって言い始めてしまったんだ。さすがにそれは事務所としても困ってしまう。それであいつは、自分から辞めると言ってその場を納めたというわけ」
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