デジタルな君にアナログな刻を
胸クソが悪い、という表現はこういう時に使うのだと悟った。きちんと仕事をした店長の方が損をするなんて、ひどい。
「俺は薗部の仕事ぶりを気に入っていたから、自分の事務所の立ち上げに誘ってみたんだけど、「他人の金に振り回されるのはもうイヤだ」って断られてしまったんだよ」
「……そうだったんですか」
自分の想像とだいぶ違う店長の過去に、少なからずショックを受けていた。真面目に働いていた見返りがそんな仕打ちでは、積極的に仕事をする気力が削がれてしまったとしても、彼だけを責めることはできない。
「俺がペラペラ喋ったって言わないでね」
立河さんは、華麗にウインクをして腕時計に目を落とす。人生二度目の生ウインク……。
たじろんでいると、名刺入れとペンをスーツの内ポケットから出して、一枚抜き取った名刺の裏に文字を書き始めた。
『適当』と『いい加減』
「これ。悪い意味で使うことが多いけど、どちらも『それに見合った』とか『ちょうどよい』っていう意味もあるんだよ」
堂々とした大人の字で書かれた小さな紙を、わたしの前に滑らせる。
「まあ、まずそんなことにはならないと思うけど。万が一この店を閉めるようなことになったら、薗部も宿谷さんもウチの事務所で働けばいいさ。一生懸命で優秀な人材は、いつでも大歓迎」
彼はすっくと立ち上がり「ごちそうさま。良いお年を」と言って、自分の事務所へ帰って行った。
テーブルの上に残された名刺の文字を、心の中で何度も読み返す。
『テキトー』は『適当』で、『いいかげん』は『いい加減』
使い方によっては、全く逆の意味になってしまう言葉。
わたしは凝り固まった頭で、一方からしか物事をみていない。そう言われたような気がしていた。
自分の腕にある時計のデジタル数字と店内の時計の針を見比べる。どちらも同じ午後3時18分を示していた。
だけど店長が帰ってくるまでの時間を、より長く感じてしまうのはアナログの時計。時針の動きが止まってるのではないかと疑ってしまうほど、時間の進みが遅く思える。
こんな時間が増えても、ぜんぜん得した気分にはなれません。……店長。
「俺は薗部の仕事ぶりを気に入っていたから、自分の事務所の立ち上げに誘ってみたんだけど、「他人の金に振り回されるのはもうイヤだ」って断られてしまったんだよ」
「……そうだったんですか」
自分の想像とだいぶ違う店長の過去に、少なからずショックを受けていた。真面目に働いていた見返りがそんな仕打ちでは、積極的に仕事をする気力が削がれてしまったとしても、彼だけを責めることはできない。
「俺がペラペラ喋ったって言わないでね」
立河さんは、華麗にウインクをして腕時計に目を落とす。人生二度目の生ウインク……。
たじろんでいると、名刺入れとペンをスーツの内ポケットから出して、一枚抜き取った名刺の裏に文字を書き始めた。
『適当』と『いい加減』
「これ。悪い意味で使うことが多いけど、どちらも『それに見合った』とか『ちょうどよい』っていう意味もあるんだよ」
堂々とした大人の字で書かれた小さな紙を、わたしの前に滑らせる。
「まあ、まずそんなことにはならないと思うけど。万が一この店を閉めるようなことになったら、薗部も宿谷さんもウチの事務所で働けばいいさ。一生懸命で優秀な人材は、いつでも大歓迎」
彼はすっくと立ち上がり「ごちそうさま。良いお年を」と言って、自分の事務所へ帰って行った。
テーブルの上に残された名刺の文字を、心の中で何度も読み返す。
『テキトー』は『適当』で、『いいかげん』は『いい加減』
使い方によっては、全く逆の意味になってしまう言葉。
わたしは凝り固まった頭で、一方からしか物事をみていない。そう言われたような気がしていた。
自分の腕にある時計のデジタル数字と店内の時計の針を見比べる。どちらも同じ午後3時18分を示していた。
だけど店長が帰ってくるまでの時間を、より長く感じてしまうのはアナログの時計。時針の動きが止まってるのではないかと疑ってしまうほど、時間の進みが遅く思える。
こんな時間が増えても、ぜんぜん得した気分にはなれません。……店長。