デジタルな君にアナログな刻を
それでも時が止まることなんて絶対にない。
地道に作ったくす玉や干支の酉、鶴などをショーウィンドウに飾り、お正月らしさを醸し出す。クリスマスに使っていたLEDキャンドルには、千代紙風の折り紙を巻いてみた。
メインの時計はどうしよう。もう少し新春らしいものに取り替えようかな。あの青いペアウォッチを手に取り、何気なく暗くなり始めていた外に目を向ける。
「あっ!」
窓の外からこちらを覗いていた女の子と目が合い、同じような形に唇が開く。次の瞬間、その人は慌てたように入り口に回って、自動ドアが作動する時間ももどかしげにドアマットの上で足踏みし、開き始めた隙間から小柄な身体を斜めに滑り込ませて入ってきた。
「い、いらっしゃいませ」
呆気にとられたわたしの手元を見るなり、彼女は目を見開く。
「その時計、売れちゃったんですかっ!?」
「え?いいえ、違います、けど……」
しどろもどろの答えに、彼女は大袈裟にほっと息をついた。
「よかったあ。その時計、ください」
ちょっと大きめのボストンバッグの中からお財布を出して握りしめる顔は、ほんのり赤い。
「ありがとうございます。贈り物ですか?」
わたしと同じ年頃の女の子がペアウォッチを買う理由なんて、他には思いあたらない。
「はいっ!その時計で逆プロポーズするんですっ!!」
狭い店中に反響する大きな声で決意表明してから、いっそう顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
「では、成功のお手伝いができるよう、心を込めてラッピングしますね」
ふたつの時計を持ってカウンターに戻ってから気づいた。
「ベルトの調節はどうしよう」
この時計のタイプだと、工具を使わないとできない。以前、店長の作業を盗み見たことはあるけれど、見よう見まねでやり、お客様に渡す大切な商品を傷つけてしまうわけにはいかなかった。
「ちょっと着けさせてください」
わたしの困惑をよそに、彼女は女性用の方を手にとって左手首に通す。パチンとバックルを留めて軽く腕を振った。それはまるで、彼女の華奢な手首に合わせたみたいに適度な余裕を持ちつつ馴染む。
「私の分は、これでちょうどいいみたい。このままで構いません」
時計をトレーの上に戻し、もう片方の時計が作る輪を見て小首を傾げる。
「彼の分はどうかなあ?」
さすがにこの場にいない人に合わせるのは、店長がいても無理だ。
「後日、当店にお越しくだされば、無料で調整させていただきますが」
「彼、いま関西にいるんです。だからこのお店まではちょっと……。そういうのって、ほかの時計屋さんでもやってもらえますか?」
関西、という単語に過剰に反応してしまって、返答が遅れてしまった。
「え?あ、はい。多少、料金がかかるかもしれませんが、引き受けてもらえるはずです」
「だったら問題ないです。って、受け取ってもらえれば、ですけど」
ちょっと前までの笑顔が一転して、不安な表情に変わる。その想いに、つい自分気持ちを重ねてしまった。
「もしよろしければ、お包みする間、お茶でもいかがですか?……あ、でもお時間が」
彼女の荷物は、これから彼の元へ行くためのものかもしれない。もしそうなら、急がないと!
「平気です。節約のために夜行バスを使うので。ここ、座ってもいいですか?」
見た目よりも重そうなバッグを抱えソファに腰掛けたので、時計を作業台に置いてからお茶を入れに行った。
地道に作ったくす玉や干支の酉、鶴などをショーウィンドウに飾り、お正月らしさを醸し出す。クリスマスに使っていたLEDキャンドルには、千代紙風の折り紙を巻いてみた。
メインの時計はどうしよう。もう少し新春らしいものに取り替えようかな。あの青いペアウォッチを手に取り、何気なく暗くなり始めていた外に目を向ける。
「あっ!」
窓の外からこちらを覗いていた女の子と目が合い、同じような形に唇が開く。次の瞬間、その人は慌てたように入り口に回って、自動ドアが作動する時間ももどかしげにドアマットの上で足踏みし、開き始めた隙間から小柄な身体を斜めに滑り込ませて入ってきた。
「い、いらっしゃいませ」
呆気にとられたわたしの手元を見るなり、彼女は目を見開く。
「その時計、売れちゃったんですかっ!?」
「え?いいえ、違います、けど……」
しどろもどろの答えに、彼女は大袈裟にほっと息をついた。
「よかったあ。その時計、ください」
ちょっと大きめのボストンバッグの中からお財布を出して握りしめる顔は、ほんのり赤い。
「ありがとうございます。贈り物ですか?」
わたしと同じ年頃の女の子がペアウォッチを買う理由なんて、他には思いあたらない。
「はいっ!その時計で逆プロポーズするんですっ!!」
狭い店中に反響する大きな声で決意表明してから、いっそう顔を赤らめて恥ずかしそうに俯いた。
「では、成功のお手伝いができるよう、心を込めてラッピングしますね」
ふたつの時計を持ってカウンターに戻ってから気づいた。
「ベルトの調節はどうしよう」
この時計のタイプだと、工具を使わないとできない。以前、店長の作業を盗み見たことはあるけれど、見よう見まねでやり、お客様に渡す大切な商品を傷つけてしまうわけにはいかなかった。
「ちょっと着けさせてください」
わたしの困惑をよそに、彼女は女性用の方を手にとって左手首に通す。パチンとバックルを留めて軽く腕を振った。それはまるで、彼女の華奢な手首に合わせたみたいに適度な余裕を持ちつつ馴染む。
「私の分は、これでちょうどいいみたい。このままで構いません」
時計をトレーの上に戻し、もう片方の時計が作る輪を見て小首を傾げる。
「彼の分はどうかなあ?」
さすがにこの場にいない人に合わせるのは、店長がいても無理だ。
「後日、当店にお越しくだされば、無料で調整させていただきますが」
「彼、いま関西にいるんです。だからこのお店まではちょっと……。そういうのって、ほかの時計屋さんでもやってもらえますか?」
関西、という単語に過剰に反応してしまって、返答が遅れてしまった。
「え?あ、はい。多少、料金がかかるかもしれませんが、引き受けてもらえるはずです」
「だったら問題ないです。って、受け取ってもらえれば、ですけど」
ちょっと前までの笑顔が一転して、不安な表情に変わる。その想いに、つい自分気持ちを重ねてしまった。
「もしよろしければ、お包みする間、お茶でもいかがですか?……あ、でもお時間が」
彼女の荷物は、これから彼の元へ行くためのものかもしれない。もしそうなら、急がないと!
「平気です。節約のために夜行バスを使うので。ここ、座ってもいいですか?」
見た目よりも重そうなバッグを抱えソファに腰掛けたので、時計を作業台に置いてからお茶を入れに行った。