デジタルな君にアナログな刻を
店内に彼女ひとりを残したままにするわけにもいかないので、申し訳ないけれどインスタントのコーヒーを素早く淹れる。テーブルにカップを置くまでバッグを抱き締めていた彼女が、食器の音で表情と手を緩めた。

「ありがとうございます」

「いえ。少々お待ちください」

ふたつの時計を丁寧にクロスで磨く。時刻が合っていることを確認し、並べて化粧箱に入れる。光沢のある白いサテンの上で、文字盤の青がひときわ濃く映えた。

プロポーズに使うものには、どんな包装が似合うだろう。こんなことなら、もっと豊富に揃えてもらうんだった。少し悩んでから、空色の包装紙を広げる。サムシングブルーじゃないけれど、精一杯のわたしからのエールのつもり。いつもよりさらに慎重に、丁寧に。

真っ白な細いリボンを十字にかけて仕上げる。子どもっぽくならず、だけど背伸びをしすぎない。そんな彼女の印象でこれに決めた。

「大変お待たせしました」

できあがりを見せると、彼女の顔がほわりとほころぶ。両手で受け取った指先が微かに震えていた。

「春には、私もあっちに行く予定なんです。だけどあと数ヶ月を待つのが辛くって。確かな約束が欲しくって。だから逆プロポーズするんです」

決意を込めた瞳をあげる。

「離れている間も、一緒の時も、この時計を見て同じ時間の流れの中にいるんだって思えるように」

彼女は照れくさそうに微笑んでから、ショーウィンドウを肩越しに振り返った。

「クリスマス前にあそこに飾ってあるのを見て思い立ったんですよ。この時計なら、きっと私の想いを届けてくれるって」

「はい、きっと」

わたしも大きく頷いて同意した。

店の外まで彼女を見送り、隙間のできたショーウィンドウを眺める。イブに売れたからくり時計に加え、真ん中まで空いて寂しくなったはずなのに、そこには商品が売れたこと以上の充実感が生まれていた。

電池交換のほかに、ベルト調節も覚えなくては。私の中にも新たな決意が湧く。
それから、もう一度営業時間の延長を提案しよう。だって、彼女が言っていたのだ。
「仕事の帰りに寄ろうと思っても、お店が閉まっていて出発の当日になってしまった」と。
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