デジタルな君にアナログな刻を
午後10時 帰宅
冬至を過ぎたとはいっても、まだこれからが冬本番。真っ暗になった外の冷たい空気を遮断するように、シャッターを下ろした。
結局今日の売り上げは、あのペアウォッチだけ。一日お店を開けていた光熱費などを引いたら、どれくらいの利益になるのか。この駅前ビルのテナント料だってかなり高いだろうに。そう思うと、手は早々とエアコンのスイッチを切っていた。
何通か届いた郵便や宅配便のうち、特に問題がなさそうなものの封だけを開けておくことにした。こうしておけば、左手が不自由でも楽に確認できる。
掃除の途中で電話が鳴った。
「いつもあり――」
『円ちゃん?』
すべてを言い終えないうちに、半日ぶりに届けられた店長の声。不覚にも胸が詰まる。
『……なにかあった?』
訝しむ様子が電話を通しても伝わってきて、わたしは受話器を両手で握り直し耳に押し当てた。
「いえ、なにも。遠藤様には無事時計を返せました。それから、会長さんと立河さんがいらして、店長の手を心配していましたよ」
『みんな心配性だな。もう大丈夫なのに』
ふう、とため息が聞こえる。眉間にシワを寄せている顔まで浮かんできた。
「それから、表に飾っていたあのペアウォッチが売れました」
できるだけさり気なく伝えたつもりだったけど。
『そう。よかったね』
「……はい」
柔らかに返された。すっかり見抜かれている。背中がもぞもぞとむず痒い。
『これからこっちを出るから、戻るのは22時過ぎになると思う。今日は本当にお疲れ様。気をつけて帰ってね』
「え?あのっ!」
切られそうになるのを食い止めようとしたけれど、なにも思いつかない。
「他にも?」
「いえ、その……。気をつけて帰って来てください」
結局はありきたりな言葉しか出て来なくって、程なく通話は終了した。
明日で年内の営業は終わる。このもやもやした想いを抱えたまま年を超したくはないけれど、もし決着つけるとしたらチャンスは明日しかない。
だけど……。
戸締まりの最後。セキュリティのスイッチを入れて大きなため息を吐き出せば、白い息が一瞬視界を覆った。手袋の手を擦り合わせ、マフラーに顔の下半分を埋める。
告白が失敗でも成功しても、すべてが解決するわけじゃない。まあ、主に自分の問題なのだけど。
緩やかな登り坂が続く帰り道。いつもより重く感じるペダルを必死でこぎ続ければ、自宅に着く頃にはマフラーで装備した首筋に薄らと汗が滲んでいた。
結局今日の売り上げは、あのペアウォッチだけ。一日お店を開けていた光熱費などを引いたら、どれくらいの利益になるのか。この駅前ビルのテナント料だってかなり高いだろうに。そう思うと、手は早々とエアコンのスイッチを切っていた。
何通か届いた郵便や宅配便のうち、特に問題がなさそうなものの封だけを開けておくことにした。こうしておけば、左手が不自由でも楽に確認できる。
掃除の途中で電話が鳴った。
「いつもあり――」
『円ちゃん?』
すべてを言い終えないうちに、半日ぶりに届けられた店長の声。不覚にも胸が詰まる。
『……なにかあった?』
訝しむ様子が電話を通しても伝わってきて、わたしは受話器を両手で握り直し耳に押し当てた。
「いえ、なにも。遠藤様には無事時計を返せました。それから、会長さんと立河さんがいらして、店長の手を心配していましたよ」
『みんな心配性だな。もう大丈夫なのに』
ふう、とため息が聞こえる。眉間にシワを寄せている顔まで浮かんできた。
「それから、表に飾っていたあのペアウォッチが売れました」
できるだけさり気なく伝えたつもりだったけど。
『そう。よかったね』
「……はい」
柔らかに返された。すっかり見抜かれている。背中がもぞもぞとむず痒い。
『これからこっちを出るから、戻るのは22時過ぎになると思う。今日は本当にお疲れ様。気をつけて帰ってね』
「え?あのっ!」
切られそうになるのを食い止めようとしたけれど、なにも思いつかない。
「他にも?」
「いえ、その……。気をつけて帰って来てください」
結局はありきたりな言葉しか出て来なくって、程なく通話は終了した。
明日で年内の営業は終わる。このもやもやした想いを抱えたまま年を超したくはないけれど、もし決着つけるとしたらチャンスは明日しかない。
だけど……。
戸締まりの最後。セキュリティのスイッチを入れて大きなため息を吐き出せば、白い息が一瞬視界を覆った。手袋の手を擦り合わせ、マフラーに顔の下半分を埋める。
告白が失敗でも成功しても、すべてが解決するわけじゃない。まあ、主に自分の問題なのだけど。
緩やかな登り坂が続く帰り道。いつもより重く感じるペダルを必死でこぎ続ければ、自宅に着く頃にはマフラーで装備した首筋に薄らと汗が滲んでいた。