ワケがありまして、幕末にございます。ー弐ー
小さくとも力のある、籠った声だった。
「刀や槍の戦いは終わりだ。
どんだけ腕に自信があるやつもそれを振るうことなく地べたに這いつくばりやがて動かなくなった」
「……」
「源さんも死に、市村でさえこのザマだ」
ポン、と頭にゴツゴツした手が乗る。
「…が、コイツがいなきゃ俺等もここまで来れたかは分からねぇ」
「え、ちょっと待ってもしかして1人逆走したバカって愁の事だったんかっ?」
左之が焦った風に俺の目の前に来る気配。
「は、なにそれ」
「銃兵隊に突っ込んでいく羽織を見たって隊士の誰かが言っててよ。でもそんな事あるワケねぇし、きっと逆走していったんだろって」
「お前じゃあるまいし」
「やーでもまーじで、俺も焦ったよ?」
アタシの膝にのしっとかかる重さ。
これは膝枕か、膝枕なのか。
「突っ込んで行ったって聞いて俺は時間稼ぎだって気付いたけどさ。その誰かの命で俺等が助かるなんて俺等は一体何がしたかったんだって思った」
「新八っちゃん、」
「土方さんの近くにお前が居ないの見てな、あれ、お前だったんかよって」
「はぁ?新八お前気付いてたんなら言えよ!」
「言ったらお前は戻るだろ?」
「んなっことはっ…」
「あるさ。俺だって振り返りたかったし、何なら撤退だってしたくなかった」
身じろぎしてアタシの腰に巻き付いてくる腕。
「もうこんな無様な姿は絶対見せない」
「…新八」
手が、腕が。
震えているような気がした。