伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「まだ半年、……でももう半年」
それが早いか遅いか、判断をつけることは難しいだろう。
しかし、月のものがくる期間以外は、ほぼ毎夜のように体を重ねているのだ。
どちらかに身体的な欠陥があるのでは……と疑いたくもなってくる。
「みゃあん」
「アン!」
不安げなドロシアのもとにやって来たのはアンだ。
「お散歩へのお誘い?」
「みゃー」
アンと一緒に森の中を散歩するのもすでに日課だ。
階段を下りて玄関を出るまでに、数人の使用人とすれ違った。
裏庭の一角を通るとき、アンが耳をぴくぴくと動かした。
「……ですかな」
二階の窓が開いている。あそこはおそらく、オーガストの執務室だ。風に乗って、かすかに声が届く。
デイモンとオーガストが話しているのだろう。
「まだ半年だ、慌てることはないよ」
「しかし、猫化は頻繁だ。……お約束は覚えてますよね?」
何の話だろう、とドロシアは耳をそばだてる。
アンも琥珀色の瞳で一心に窓のあたりを見つめてじっとしている。アン自体もきっとこの話に興味があるのだろう。
窓から聞こえてくる声はとぎれとぎれだ。
「ああ。忘れてはいない。……でももう少し待ってくれ。まだ時間はある」
「そうですね。期待していますよ」
“半年”はおそらくドロシアが妊娠しないことを指しているのだろうが、お約束に関してはまったく心当たりはない。
その時、猫のアールの鳴き声がして、アンが無言のままドロシアにしっぽを振って走り出した。
「待って。私も行くわ」
ドロシアはアンについて走り出した。
そのまま先ほどの会話のことは頭からすっかり抜けてしまった。