伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
今日のための衣装を作ることになったときの、デイモンからのオーダーだ。
控えめでありながら、伯爵家の財力を疑わせないよう、細かい刺繍の縁取りを入れること。そして裾丈を床ギリギリまで伸ばすこと。
屋敷にいる多くの使用人は、実に多種多様な特技を持っていて、ドレスを仕立てられるものも数人いる。
ドロシアはデイモンを通じて紡績業が盛んな隣の伯爵領から生地を取り寄せ、彼のオーダーに見合うドレスを作った。
何故、デイモンがドレスに対してこんなに口出しするのだろうと疑問だったが、ここで納得だ。
「国王の誕生祭は、多くの貴族が首都に集まるという意味で、いろいろな人間にとっての好機なのです。オーガスト様に寄ってくるような人間は主に商売っ気のある方ですね。実は、巷では“ノーベリー伯爵が認めた事業は必ず発展する”という噂がまことしやかに流れているのです。そのため、支援を必要としているような商人や、自分と一緒に投資に加わってくれる仲間を探している貴族などがオーガスト様と友好を深めたいと常に狙っています。こちらとしても大事な商売相手となるわけですから、あまり無碍にもできません。本当はここで友好を深めてもらえればいいのですが、猫化しては意味がないので話さないのはまあいいです。ですが、せめて服装や持ち物で潤沢な資産を持っていることを示してもらいませんと」
「はあ」
「すごいだろ? デイモンは。僕は服なんて姿さえ隠してくれればいいと思っていたんだけど、言われてみて納得したよ」
「オーガスト様がのんきすぎるのですよ。たまたま、今までの事業がうまく行っているからと言って、永遠に続くわけではありません。常にご自分に価値があると思わせ、自らでも原石を見つけ出さないと、投資の仕事というのは乗り遅れます」
「ああわかったって。頼りにしているよ」