伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
話しているうちに、外からは賑やかな声が聞こえてきた。
デイモンは小窓をあけると、「ああ、もう着きますね」と頷いて窓から離れた。ドロシアは興味津々で小窓に顔を押しつける。
石で作られた壁に囲まれた首都には門があり、そこに大型の馬車が吸い込まれるように入っていく。
街道沿いには、塀の外であるにもかかわらず、豊かな首都の恩恵にあずかろうと出店を開くものもいた。
塀の中に入れば、門前町が広がっていた。道のいたるところに多くの店が軒を連ね、威勢のいい呼び込みの声が馬車の中にも届いていく。街の中心には大聖堂が荘厳なたたずまいを見せ、更に少し高台に堀で囲まれた城がそびえたっていた。
「私、このお祭りに来るのは子供の時以来だわ。こんなに賑やかだったのね」
「城下町にすれば一番の稼ぎ時ですからね。我々は馬車のまま城に入ります。そこまで行けばこの賑わいは少し収まりますよ」
馬車の中の会話はドロシアとデイモンだけで続けられている。オーガストが静かなことが気になり、顔を向けると、緊張したように唇を引き結んでいた。
「絶対に猫化できない……」
「オーガスト様、そんなに緊張していたら疲れてしまいますわ」
「だけどドロシア。今回バレたら僕たちだけじゃなく君まで……」
「私はあなたの妻です。一蓮托生だと申し上げたはずです。大丈夫ですよ。変化するところさえ見られなければいいんでしょう? 猫になってからならいくらでも誤魔化せます」
平気な顔でしれっと言うドロシアに、デイモンがにやりと笑いかける。
「その通り。ドロシア様はなかなか肝が据わっていてよろしいですな」
「褒めてるの? デイモン」
「褒めてますとも」
笑みさえ浮かべるドロシアとデイモンに対して、オーガストだけはいつまでも不安そうだ。
そうこうしているうちに馬車は堀にかけられた跳ね橋もこえ、城の玄関口につく。ふたりはおずおずと馬車から降り、衛兵が「ノーベリ―伯爵夫妻のお付き」と高らかに宣言するのを耳にしながら城の中に入った。