伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

メルヴィル男爵との待ち合わせは城内に数ある休憩場所の一か所だ。
今日は祭りのため、城の一階のあらゆる部屋がお祝いに駆け付けた貴族のために開放されている。

各部屋の扉は開け放たれ、ソファがそこかしこに並べられている。
オーガストが指定したのは、一階の中でも目立たない奥の、裏庭への窓があるこじんまりした部屋だった。

大きめの応接間では幾人もの貴族が談笑していたが、奥の小部屋であるこの部屋にいたのは、ドロシアの父だけだった。
入った瞬間、ドロシアは以前のように黒の礼服を着こなし、髭もそった精悍な父の姿を見て、思わず声を張り上げた。


「お父様!」

「……ドロシア!」


父の広げられた手の中に、ドロシアは慎みを忘れて飛び込んだ。
手を広げてみたものの、現実主義でしっかり者の娘がこんな行動に出るとは思わなかった男爵は、受け止めきれずによろけてしまう。


「良かったです。お父様。ご立派になって」

「おいおい、それはこっちのセリフだよ。こんな上等なドレスまで着せてもらって。……こちらが、ノーベリー伯爵かい? 初めまして。……っていうのもおかしな話ですがね。ドロシアの父です」

「オーガスト=ノーベリーです。大切なお嬢さんをいただいておきながらご挨拶にも伺わず、失礼をしております」

「いえいえ。娘からの手紙で聞きました。体がお弱いそうで、こちらの空気があわないんだとか。今日は大丈夫ですか?」

「へっ……」


どうやらドロシアが会いに行けない理由を適当にでっち上げたらしい。
素っ頓狂な声を出してしまったオーガストは、目配せしてくるドロシアにハッとして「ええ。そうなんです。ゴホッ」とわざとらしく咳をする。
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