伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「チェスターは魔女と人間の子です。そういう意味では、彼が一番オーガスト様に近い。それに、年齢的にもチェスターが一番問題ない。ここには若い男は少ないですからね」
「だって、チェスターにだって気持ちはあるわ」
「あいつにも言い聞かせてあります。ドロシア様のことは気に入っているようだし。……気持ちまで下さいと言っているわけではありません。あいつをオーガスト様と思ってくださってかまわない。ただ、世継ぎだけはどうしても必要なんです……!」
また物のように扱われるのか。
私の気持ちなど、誰も考えてはくれない。
ドロシアの胸の内を、嵐が襲った。
信頼できると思っていたチェスターやデイモンがそんなことを言うなんて。
なによりも、オーガストがそんな条件を飲んでいたなんて。
裏切られたような気分だった。
悲しさとも怒りともつかない感情が、ドロシアの全身を支配していく。
「皆ひどいわ! 私は子を作るための道具じゃない!」
感情を抑えきれず、ドロシアは刺さっていた髪飾りを引き抜き、投げつけた。
それはオーガストに当たり、更に床へとおちる。
オーガストは、微動だにせずにうつむいたままだ。
「オーガスト様の、……ばかっ」
このままオーガストやデイモンの顔を見ていたくなかった。
「ドロシア……」
「オーガスト様、しばらく放っておいて差し上げましょう」
ふたりの声が背中に聞こえる。
ドロシアは唇をかみしめたまま、屋敷の外へ出た。