伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「君を傷つけるとわかっていてあんなことを言って。……本当に悪いと思っている」
「なーん」
オーガストを擁護しようとしてか、アールが彼の背を舐める。
オーガストは悲しそうな顔をしたまま続けた。
「……百年。家族を失ってから、僕はそれだけの年月を生きてきた」
とび色の瞳が一度ドロシアを捉えて、またそらされる。
「生き残ってしまったことが悔しくてね。母は僕に生きていてほしかったのかもしれないが……残されるくらいなら一緒に死にたかった。……そう思っていた僕を救ってくれたのが、アールや今はもう死んでしまった使用人たちだ」
「アールはその時から?」
「ああ。アールは父の飼っていた猫だ。誰の使い魔というわけでもなかったんだが、魔力を持った猫だったんだろうね。彼も九生を生きてる。今が最後の生だ」
「なーん」
オーガストに寄り添うように、彼はいる。
それで、ドロシアは少しだけホッとして思わず言ってしまった。
「……だったら、オーガスト様がすごくつらかった時期を、アールは一緒に過ごしてくれたんですね。……よかった」
オーガストが目を見張る。おかしなことを言っている自覚はあったが、本心だった。
「オーガスト様が独りぼっちじゃなくて本当に良かった。だって、記憶が共有できるってそれだけで孤独ではなくなるものでしょう?」
母を失ったドロシアにとって、メルヴィル男爵邸は大切なものだった。もちろん、そこに住み続ける家族や使用人たちも。
彼らとの共有した母の記憶が、ドロシアの心をいつも慰めてくれていた。
オーガストにもそういう存在がいたことが、単純にうれしかったのだ。