伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「嫌。……嫌です! あなたの妻は私だけです」
「そう言ってくれるのは嬉しいけれど。……でもねドロシア」
「……そうですよ、ドロシア様が産むからこそ、あなたの子だと言い張ることができるのです。別の女性など論外だ」
デイモンの声が突然聞こえて、ドロシアは驚いて顔を上げた。
と、口元を何かで覆われる。いつの間にか背後に立っていたデイモンがドロシアを拘束したのだ。口もとにあてがわれたハンカチには薬がついているのか、急速に意識が遠のいていく。
「何をするんだ、デイモン!」
猫のオーガストが尻尾をピンと立てて叫ぶ。しかし、デイモンは冷静な顔を微動だにさせずに言い放った。
「私は最初から言っていたはずです。世継ぎを得るために手段は選ばない、と。あなたも同意してくださったでしょう。かくなる上は、ドロシア様に暗示をかけ、チェスターとの子を身ごもっていただきます」
「もがっ」
口を押えられながら反論しようとしたが、体の力が抜けていく。大柄なデイモンは、ドロシアを軽々と両腕に抱き上げた。
そして、足元にまとわりついてくるオーガストとアールを、軽く蹴とばした。
「申し訳ありませんな、オーガスト様。でもすべてあなたが悪いのですよ。猫の姿から戻れないのならば、あなたはもう役立たずだ。このままこの屋敷を維持するのに必要なのは、もうあなたではなくこの土地を継ぐものだ。私が、なんとしてでもお世継ぎを彼女に身ごもらせてみせます」
「もがっ、もが」
「さあ、屋敷に戻りましょう。クラリスが待っています」
口調も態度も丁寧に、デイモンはドロシアを運ぼうとする。
心はこんなに乱暴に扱われているのに、とドロシアは皮肉めいたことを思った。