伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「……私、なんで指輪をつけっぱなしにしているのかしら。思えばあなたに失礼よね」
「いえ。あくまでも建前上はドロシア様はノーベリー伯爵夫人ですから」
「そうだけど。……どうせ人に会うわけでもないのに」
そうだ。ノーベリー伯爵は人嫌いで屋敷の外には出ない。なのに、なぜ妻が必要だったのだろう。
世継ぎを産んで用なしとなったならまだしも、ドロシアは彼とは一度しか対面していないというのに。
「……いたっ」
また、頭が痛む。夫の顔をおぼろげながらでも思い出そうとすると、急に頭に靄がかかる気がする。
「大丈夫ですか?」
「ええ」
よろけたドロシアを、チェスターが支えた。
ドロシアは彼に寄りかかり、その心臓の音を聞いて落ち着こうとする。その時「なーん」と声がした。
アールの声だ、と思ってあたりを見回す。黒猫のアールは庭の片隅でこちらを見て鳴いていた。
その姿は見慣れた感じがして、心が落ち着いてくるのが分かる。
「アール。……アールはいつも庭にいるわよね。……どうしてだったかしら」
「彼は外が好きなんですよ。ドロシア様、やはり体調が悪そうだ。部屋に戻りましょう」
「え?」
次の瞬間、膝裏に手をいれられ、横抱きにされる。
チェスターの突然の行動に、ドロシアの思考はすべて持っていかれてしまった。
「やっ、恥ずかしいわ」
目の前の彼のことだけで胸がいっぱいで、今までの不安が一瞬で遠ざかる。
彼の首に手を回すと、微笑んだチェスターは瞼にキスを落とす。