伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「あ……」
顔を見た瞬間にすっと血の気が引く。ドロシアのあからさまな怯えに、デイモンは苦笑した。
「まあ怯えられて当たり前ですな。しかし今はあなたに手出しはしませんよ。ご安心ください」
「……デイモン」
デイモンはドロシアを椅子に座らせ、自分は床に膝をつき、頭を下げる。
完全なる忠誠の態度にドロシアは落ち着かない。
「やめて、デイモン。お願いだから、椅子に座って」というと、ようやく隣の椅子に腰かけてくれた。
部屋に散らばったガラスはチェスターによって片付けられ、クラリスとオーガストとアールは、ベッドを囲むようにして話し合いを重ねている。ドロシアとデイモンは、少し離れたところでそれを見つめていた。
「あなたは不思議な方ですな」
デイモンは、視線をクラリスに向けたまま、ぽつりとつぶやいた。
「……私がクラリスと結婚するとき、彼女は頑なに外の世界を拒みました。それで、彼女の生きる世界は、私が今まで生きた世界ではなく、この屋敷にしかないのだと思ったんです。だから誓った。なにがあっても、この屋敷を守ると。たとえ悪人と言われてもかまわないという覚悟でした。……でもあなたは違うんですな。まさか、オーガスト様本人のほうを変えるとは、思いませんでした」
「デイモン」
デイモンは、膝に手を置いたまま、深々と頭を下げた。