伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「申し訳ありませんでした。無理やりほかの男との子を作らされるなんて、嫌だったろうというのは承知しています。私を許さなくて構いません。ただ、教えてもらえませんか? もしオーガスト様がこのまま人間に戻らなかったとしたら、あなたはどうするつもりなんですか?」

「その時は、猫のオーガスト様と暮らすわ。私は彼といるだけでたぶん幸せでいられるから」

「では私は、どうしたらいいと思います?」


デイモンが途端に迷い子のような表情を見せた。
彼自身、自分の常識の通じない世界で、何年も必死にもがいてきたのだろう。そして築き上げた土台を、今またドロシアに崩され、途方に暮れた少年のようになっている。

ドロシアは黙って考えを巡らせた。
その間、デイモンは自らが探し求める答えを、彼女に期待して何度も視線を送る。

彼女が顔を上げた時には、ホッとした顔さえ見せた。

そしてドロシアの口から語られたのは、デイモンが予想もしなかった話だった。


「……私の弟はね、父の事業が失敗して借金だらけになったとき、ならば爵位なんていらないと靴職人を目指し始めたの。今じゃいっぱしの靴を作るわ。オーガスト様の支援を受けて、父の仕事も軌道に乗ってきたみたいだけど、うちは一代貴族だから元々功績を残せなければ一代限りで終わる爵位だし、弟はきっとこのまま靴職人として生きると思うわ」

「弟君……ですか?」

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