伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「もしかして……オーガスト様若返っていませんか?」
「そうかな」
「そうですよ。こんなにつるつるじゃなかったですよね」
オーガストの頬を両手でつかんで触りまくるドロシアの背中に、ゴホンと咳払いの声がした。
「少し説明をさせてもらってもいいかしら」
笑顔を引きつらせているのはクラリスだ。
傍目に見れば、ドロシアとオーガストはいちゃついているようにしか見えないだろう。意識した途端に顔が真っ赤になり、飛びのくようにしてオーガストから離れた。
「なーん」
アールが小首を傾げて鳴いた。オーガストは目を見張り、彼の方を見つめる。
「……アール?」
「なーん」
「そうか、アールの声も分からなくなるのか」
「え?」
ドロシアも驚いたが、「魂が分離したんですから当然ですわ」とクラリスが続けた。
ふたりは改めてクラリスに向きなおる。
「とりあえずオーガスト様、服を着ませんか? このままでは落ち着いて話もできません。あなた、オーガスト様の着替えを」
「あ、ああ」
言われて、デイモンが立ち上がる。
「ここは窓も壊れてしまいましたし、オーガスト様の執務室でお話しましょう。いいですか? ドロシア様」
颯爽と立ち上がるクラリスに返事をし、部屋を出ていく皆を見送ってから、ドロシアは黒猫のアールを抱きしめた。
「アール。あなた、オーガスト様とお話できなくなっちゃったの?」
「なーん」
猫は同じような調子で鳴く。嬉しいのか悲しいのか、ドロシアには判別がつかない。
「魔法を解いたからよね。……ごめんね、あなたにとっては寂しいわよね」
「なーん」
黒猫は、尻尾を器用に動かしドロシアの頬をくすぐった。
気にするな、と言われているようで、ドロシアは笑顔を作ろうと思ったのに、涙が出そうになった。