伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「鍵?」

「きっかけのようなものですね。オーガスト様自身が、もう守りは必要ないと思えるまで、あなたを守り続けるための魔法だったんです。おそらく血か、それに準ずる体液を使って、使い魔に託された奥様の魔法だったんですよ」


オーガストはあの日の記憶をたどる。

背中を刺され、朦朧とした意識の中、何らかの文言を唱えながら自らの胸に短剣を刺した母の姿を見た。
彼女からこぼれた血は辺りに飛び散り、使い魔の猫やオーガストにも降りかかった。あれは、彼女の魔法を持続させるための場を作る為のものだったのか。

猫はオーガストを守るために、命を差し出した。
瀕死の状態だったオーガストを救うには、それしか方法がなかったから。

五度めの生を生きていた使い魔の魂とオーガストの魂が融合してすぐに、十七歳のオーガストは息を引き取った。


『大丈夫、六度目の生が始まりますよ』

それはオーガストの記憶には残らない囁きだった。

体を再生し、十七歳から再び生をつないだオーガストは、精神に混乱をきたしていた。

自らの幸せを奪った軍人や世の中を恨み、何もできない自分を悔やみ、失ったものに愛着を寄せる。
その思いが彼の中の魔力を暴走させた。意識なく、軍人たちの記憶を改ざんし、自らをこの屋敷にしばりつけたのだ。


「……この屋敷には、奥様の血によって“魔法の場”が出来上がっていた。しかし魔法を実際にかけたのはオーガスト様、あなたなんです。屋敷に訪れるものに負担を与え威圧し、この屋敷に住む魔力を持つ者たちを隠し通すための魔法。それをあなたが無意識にかけていたのだと思います。ドロシア様、屋敷に来た当初、疲れやすくはありませんでしたか?」


クラリスの問いかけに、ドロシアは頷く。
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