伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「問題はあります! ただでさえ釣り合わないのに。こんなそばかすに赤毛の妻じゃ、人前に出られないわ」
「どうして? ドロシアは僕の最高の妻だ。これからは一緒にどこにでも行ける。僕はむしろ、自慢したいくらいだよ。こんなに可愛い赤い宝石が、僕の傍でずっと輝いていてくれるなんて」
とび色の瞳をキラキラ光らせながら、オーガストは夢見るように言う。ゴホン、と咳払いをしたのはデイモンで、オーガストは我に返ったようにクラリスに向きなおった。
「ごめん、ごめん。久し振りに人間に戻れたから嬉しくて。……で、クラリス、僕の中にはもう猫の魂はないんだよね? ドロシアとの子供はつくれる?」
「お子様に関しては正直できてみませんと分かりませんが、猫の魂はすっかり浄化したようです。アールの声ももう聞こえないんでしょう?」
「ああ。……それはちょっと、残念だけどね」
オーガストがちょこんと座っているアールに手を伸ばす。彼はぴょんと膝に飛び乗るとかしこまって「なーん」と鳴く。
「お前も残念かい? はは。でもよかったって?」
ひとりと一匹は顔を見合わせて笑っているではないか。
「オーガスト様、アールの言葉が分かるんですか?」
「もう言葉は分からないよ。でも百年も一緒にいるからね、表情や態度で、ある程度は理解できる。……アールは、こうなったことを喜んでくれてるよ」
「すごい。私もアールの気持ちわかるようになりたいわ」
「なーん」
アールはドロシアに向かって一度鳴くと、ぴょんと飛び出して部屋を出ていった。
今のは“頑張れ”って意味かな、なんて勝手に思いながら思いを巡らせていると、やがて窓の外から二匹の猫の声が聞こえてきた。窓辺によって姿を探すと、森へと向かうアールをアンが追いかけているのが見えた。
この屋敷に来てから、ずっとドロシアを支えてくれていたのはアンだ。
「アン、頑張って」
今度は自分が応援しようと心に決めて、木々のトンネルに消えていった二匹のことを想う。