伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
室内は和やかな空気に包まれ、オーガストが話をまとめようと、「これで元通りということでいいかな」と告げた。
しかし一人だけ、それに首を振った人間がいる。
デイモンだ。
「いえ。元通りではありません。オーガスト様。私はここでの仕事をやめようと思っています」
これには、オーガストだけではなく、クラリスやチェスターも息を止めた。
「あなた? どういうこと?」
デイモンは苦笑したままオーガストのほうを見やる。
「私は今回、あなたやドロシア様を物のように扱った。その罪は許されるものではありません」
デイモンが頭を下げ、オーガストは黙ったままだ。ドロシアは窓辺から恐る恐るオーガストの横に戻り、彼の決断を待った。オーガストははあ、とため息をつくと、腕を組みなおした。
「……僕が許すと言ってもかい?」
「ええ。私が、自分自身を許せません。奢っていたんですよ。自分の決断以外にこの屋敷を守る方法はないと。でも間違っていました。それをドロシア様が証明してくださったんです。……新しい暮らしのヒントもいただきましたし、一念発起して出直したいと思っています」
「じゃあ、クラリスとチェスターはどうするんだ。君の妻と子だ。連れていくのか?」
「……いえ」
クラリスが息をつめてデイモンを見つめている。チェスターが不安そうな母親を支えるように肩に手をのせた。