伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
クラリスは嬉しいとも悲しいともつかない顔をした。
「無理よ。魔女が……外で生きるなんて」
「無理じゃない。俺は、この屋敷以外に魔女が生きられる場所を作るんだ。そのために君の力が必要なんだ」
「どうしちゃったの、あなた」
「ドロシア様が俺に道を示してくださった。俺はそれに賭けてみたいんだ」
デイモンの表情は晴れ渡っていた。
クラリスは一度恨めしそうにドロシアを見たが、やがて諦めたように苦笑した。その瞳にはうっすらと涙が浮かんでいる。
「……あなたはこうと決めたら人の言うことなど聞かない人だったわね。分かりました。私もあなたを信じる。一緒に……行くわ」
まだためらいを残す口調で告げたクラリスの手を、デイモンは両手で包み込む。
「……ありがとう」
「お礼なんてやめて。あなたがしてくれたことを返しているだけよ。自分の世界を捨てて私の傍にいてくれた。……今度は私が、あなたの世界へ飛び込むってだけ」
「それでも、俺は嬉しいんだ」
もう一度固く手を握って、「では」とデイモンが意気込んだとき、水を差したのはオーガストだ。
「待て、デイモン。まだ僕は君の雇い主だよ」
「ですから、今日を限りに辞めますと」
「急にそんなことを言われても困る。そうだな。チェスターが君のやっていた仕事に慣れるまでの一ヵ月は君はまだ僕の使用人ということにしよう」
デイモンは頬を引きつらせた。そこに、オーガストが続ける。