伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「領地の端に、ヴァーン川の氾濫防止のために堰を作ったときに、監視用にと建てた屋敷があるだろう。あのあたりは、首都にも近く、水源があるから農業も安定している。そのせいか地域住民は比較的温和だ。……ひと月の間、そこを起点に事業の道筋をつけるといい」
「……オーガスト様」
「そこまでは命令だ。その先については仕事として交渉しよう。君の事業に、投資させてほしい。ひいてはそれが、僕の仲間たちを救うことになると信じている」
「いいのですか? オーガスト様」
「これでも僕は優秀な投資家だよ。勝算がなきゃ手を出さない。後は君が僕をビジネスパートナーとして認めるか否かだ」
オーガストが差し出した右手を、デイモンは恐る恐る……だがしっかりと握りしめた。
「ありがとうございます」
「いや、礼を言うのは僕のほうだよ。君はよく尽くしてくれてた。僕がもっとしっかりしていたら君はあんなことをしなくてすんだはずなんだ」
目を伏せたオーガストに、デイモンが皮肉気に笑いかける。
「……オーガスト様はあれでいいんですよ。優しくておっとりしたあなただから、みんながついてきていたんです。それに……」
デイモンがドロシアの手を引っ張り、オーガストの手に重ねるように置いた。
「あなただからこそ、幸運の令嬢の心を掴めたのでしょう」
突然会話に入れられたドロシアは戸惑い、オーガストと顔を見合わせ、そして笑った。
「私は幸運ですか?」
「おや、ご存知なかったのですか。あなたは人に幸せを運ぶ。これからは自覚したらよろしい。その赤い髪は、その場を照らす、明るい光だと」
デイモンの言葉にドロシアは嬉しくて頬を染めた。と、オーガストが眉をひそめて彼女を腕で抱え込む。
「こら、デイモン、いいところを持っていくなよ」
ははは、と笑い、デイモンはクラリスを立ち上がらせる。
「しばらく部屋に下がらせていただきます。……家族で、もう一度今後について話し合いたいと思いますので」
「ああ。分かった」