伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「オーガスト様ー、どこにいらっしゃいますかー!」
「あの声は、チェスターだな。行こうか」
ノーベリー伯爵がドロシアの目の前に手を差し出した。
ところが普段、男性と会うことがほとんどないドロシアは、一瞬手を取るのが遅れてしまった。
「あ、あの」
「え? ああ、ごめん。じゃあ僕についてきて」
伯爵はそれを拒絶ととったのか、差し出してくれた手を引っ込め、背中を見せて歩き出してしまった。
(嫌なわけじゃないんです!)
そう伝えようにもタイミングを逃してしまって言えなくなる。
伯爵の歩幅は広く、普通に歩いていると後れをとってしまう。少しずつ距離が離れては小走りに追いかける、を繰り返しながら、伯爵の背中を見つめていたドロシアはなんだか切なくなってきた。
(……なんか私、失敗ばっかり)
お嫁さんになるためにここに来たというのに、事態は思わぬ方向に進んでしまっている。
このまま帰されるのは避けたいけれど、何を言ってももう伯爵は取り合ってくれない気がした。
後ろからの鳴き声にちらりと振り向くと、黒猫と白猫がじゃれ合うように体をこすり合いながら遊び始めた。
猫でさえラブラブできるのに……などと思うと、別に伯爵が好きなわけでもないのに悔しくなってくる。