伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
木々のトンネルを抜け森への入口まで出た時に、伯爵が大きく手を振った。
「ここだよ、チェスター」
「ああ、オーガスト様。ドロシア様のお姿が見えないんですが」
「ドロシアもここにいる」
彼の後ろからぴょこんと顔を出すと、ホッとしたように顔を綻ばせたチェスターがそこにいた。
「なんだ。お二人で散策中でしたか? それはお邪魔して申し訳ありません」
「いや。……ドロシアは実家に帰そうと思うんだ。悪いがチェスター、また馬車を出してもらえるかな」
「えっ?」
チェスターは驚いて目を丸くし、主人とドロシアの顔を見比べる。
(そりゃそうよ。来たばかりの花嫁が帰されるなんて)
ドロシアは素直に困り顔を見せた。するとチェスターは、小さく頷き、平然と言い放った。
「……申し訳ありませんが、一頭調子の悪い馬がいるのです。昨日頑張って飛ばし過ぎたようで、足をくじいたかもしれません。今日また同じ距離を走らせるのは無理ですね。もしお帰りになるにしても、数日延ばしていただかないと」
「しかし、チェスター……」
「か、構いませんっ」
伯爵は渋ったが、ドロシアは渡りに船といった感じで飛びついた。伯爵がドロシアのほうを振り向いた瞬間、ウィンクして目配せしてくれる。
(ありがとう、チェスター!)
手振りでチェスターに感謝を伝え、ドロシアは伯爵に向きなおる。