伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
落ち込んで俯いているドロシアの目の前に、白い小さな花が差し出された。
驚いて顔を上げると、チェスターが微笑んでいる。
「すみません。雑草なんかで気を引いて。でも聞いてください。昨日、眠っていたドロシア様を寝かせておくようにと言ったのはオーガスト様です。ご自分で抱き上げてお部屋まで連れて行ったんですよ。オーガスト様が偏屈だと噂されているのはご存知ですよね。普段は外の人間には本当に冷たい態度しかとらないんです。なのに先ほどもたくさん話しておられて、正直驚きました。感情表現が下手な方なのでわかってもらえないかもしれませんが、ドロシア様のことはきっと気に入っておられますよ」
「……励ましてくれてありがとう。チェスター」
出会ったばかりで大切に思われるはずもないだろう、と思ったが、チェスターが励ましてくれているのはわかったのでドロシアは微笑んだ。
「さ、こちらへ。朝食の準備ができております」
「ありがとう」
差し出された手はエスコートのものだというのが、さっきの失敗から分かっていたので、すぐに手をそえる。
麗しい顔のチェスターはドロシアを元気づけようとしているのか、いたわる様な眼差しを向けてくれていて、傷ついた心にはやさしさが染みてくる。
「私は、ノーベリー伯爵の妻になれるでしょうか」
ぽそりと言ったら、チェスターはにっこりと微笑んだ。
「そうですね。まずは呼び方から変えられたらいいと思います。ノーベリー伯爵、では他人行儀でしょう。オーガスト様、と呼んであげてくださいませ」
「オーガスト様……」
そうだ。言われてみればずっと彼のことを伯爵伯爵、と呼び続けていた。これでは距離が近づかないのは当たり前だ。
「ありがとう、チェスター。私頑張りますね」
「ええ」
チェスターは純粋に主人とドロシアがうまく行くように願ってくれている。
勇気づけられ、ドロシアは気分も新たに屋敷へと向かった。