伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「困ります。マクドネル子爵」
「今回の支援の話、ぜひともノーベリー伯爵にお願いしたいのだ。直接話をさせてほしい」
「ですから、手紙でお伝えした通り代理の者がそちらに参りますと」
「待てどもなかなか来ないではないか。今日は娘と近くまで来たのでね。せっかくだからノーベリー伯爵にぜひともお目通り願いたいと思ったのだ」
「ですがこちらにも準備が」
チェスターの困った声にドロシアは助けなきゃという気分になる。
自分の屋敷でならば、啖呵をきって追い返すところだが、ここで勝手にするわけにもいかない。
(オーガスト様はどこかしら)
使用人の少ないこの屋敷は、廊下を歩いていて人に出くわすということがあまりない。
一瞬迷ったが、ドロシアは近くの扉を順番にノックして開け、彼を探す。
結局、三番目に開けた扉が執務室だったようで、椅子に腰かけて本を読んでいた伯爵が顔を上げた。
「おや……ドロシア。どうしたんだい?」
「なんか人がいらっしゃっていて。チェスターが困ってるみたいなんですけど」
「へぇ。誰?」
「マクドネル子爵とか」
「ああ。あの子デブちゃんか」
自分よりも年上であろう子爵を子デブちゃん呼ばわりする彼に驚きつつも、言いえて妙だったので笑ってしまった。
オーガストはゆっくり立ち上がると、「まあチェスターに任せておいてもいいんだけどね」と言いつつ、彼女の頭を子供にするように撫でて部屋を出た。
(また子供扱い……)
悔しく思いつつ、ドロシアは彼の後を追いかけた。
ちょっと遅れただけなのに、彼はもう階段の中ほどを歩いている。