伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「やあ、マクドネル子爵。ごきげんよう」
「オーガスト様! 申し訳ありません」
出てきたオーガストにチェスターが驚いて振り向いた瞬間に、彼を押しのけるようにしてマクドネル子爵が入ってきた。
「ノーベリー伯爵! この間の手紙は読んでいただけましたかな。ああ、紹介します。こちらはうちの娘のビアンカです。近くまで来たのでぜひお目にかかろうと……」
笑顔を向けるマクドネル子爵に対して、オーガストは見るものを凍らせるような冷徹な声を出す。
「僕は使いの者をいずれ行かせるとお返事したと思います。投資についての内容をまとめてから持たせようと思っていたのですがね。あの話はなしにいたしましょう。時をお待ちになれないような小者と組んでも、こちらに利益は望めませんから」
辛辣に言い放ち、歪んだ笑顔を見せる。近寄って親愛の情を示そうとしていた子爵は、両手を広げたまま固まってしまった。隣にいる令嬢は怯えたようにお付きの従者に寄り添っている。
今まで、優し気な伯爵しか見たことのなかったドロシアは、思わず同一人物かと疑ってしまった。
「どうぞお帰り下さい。これまでの商談はすべて破談にいたしましょう」
「ま、待ってくれ、ノーベリー伯爵」
「僕が、領土に他人を入れたがらないのはご存知でしょう? それを敢えて来たんですから、こうなることくらい予想できたでしょう」
「待ってくれ。今日は娘もいる。せめて紹介だけでもさせてもらえないか」
「チェスター。お帰りいただけ」
命令を受けた機械のように、チェスターは頷くと力いっぱい子爵を押し出し、「申し訳ありません、子爵」と締め出してしまった。