伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

今の光景が信じられず、ドロシアは呆けたまま見入っていた。
冷たく近寄りがたい空気をまとっていたオーガストは、玄関扉が閉まったとともにその空気を一変させた。ふにゃりとした微笑みを浮かべて「怖がらせたかな。ごめんね」と言う。


「あ、あの。いいんですか?」

「子爵のこと? ああ、いいんだ。共同出資を頼まれていたんだけどね。シミュレーションしてみたけど、あまり採算は取れないなと思っていたところなんだ。ちょうど良かったよ」

「でもその、ほら、お付き合いとか」


貴族同士ならば、機嫌をとっておいて損はないはずだ。


「僕の財産狙いで近づいてくるような輩には興味ないからいいんだ」


階段を軽やかに上って、再びドロシアの頭を撫でて執務室へと戻ろうとする。


「あ、あのっ」


ドロシアは思わず声をかけた。オーガストは立ち止まり、「なんだい?」と穏やかに言った。
そこには、先ほどまでの冷徹さはない。

財産狙いで近づいてくる人間には興味ないのに、借金まみれの男爵令嬢を嫁にしようというのはおかしくはないだろうか。


「先ほどのご令嬢は、その」

「子爵の令嬢かい? 今年十七だという話だよ?」


こんなところに連れてこようと言うのは、明らかに政略結婚を狙ってのことだと思うのだが。


「わ、私より若くて、とても綺麗でした。オーガスト様は、その……」

「……君がいる間に次の女性をとは思っていないよ。それに、子爵家は別に金に困っているわけじゃない。僕は欲にまみれた人間は嫌いなんだよ」


困ったように笑ったかと思うと、オーガストは部屋に入ってしまった。
追いかけていいものかわからず、ドロシアは彼の消えた扉を見つめたまま黙り込む。
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