伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
向かいに座って彼を眺めていると、やっぱり似ていると思う。
昔会った、とび色の瞳の茶色い猫。オーガストになんとなく親しみを感じるのは、そのせいだろうか。
(昨日入ってきた猫。そして朝に裸でいたオーガスト様……まさかね)
ドロシアは突拍子もない想像を頭から打ち消す。そんなことがあるはずないのだ。
しかし、そうであれば、オーガストが裸でいたことには説明がつく。
(でもあるはずない。人間が猫になるだなんて)
卵料理を口に含んだところで、「なーん」と鳴きながら黒猫が入ってきた。
「ああ、アールも食事の時間だな。ここはいいよ、チェスター。アールたちを見てやってくれ」
「はい。ではドロシア様、失礼いたします」
「ええ」
「なーん」
猫はオーガストの椅子の周りを一周するとチェスターについて出ていった。
「オーガスト様はあの黒猫ちゃんが好きなんですね」
「ああ。親みたいなもんだからね」
「親?」
「ああ。アールは僕の父の……。いや、ごめん。なんでもない」
途中で我に返ったように口をつぐみだした彼を見て、浮かれていたドロシアの気分はしぼんできてしまった。
(知りたいのに)
自然にそう思って、ドロシアはため息をつく。
秘密がある、と最初からオーガストは言っていた。おそらくはこの猫たちもその秘密の一部なのだろう。
(でも私は聞いちゃいけないんだわ。……帰るから)