伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

目の前のオーガストは、皿に乗った食事をほぼ食べ終えてしまっている。フォークとナイフの扱いはさすが上位貴族だけあって丁寧で、食べ終えた皿もきれいなものだ。くぼんだ瞳はドロシアを映し、見られているこちらがきゅっとなるほど優しい顔で微笑む。

ドロシアは胸が詰まって来て、食事のパンがうまく喉を通らない。


「どうした? 口に合わなかったかな?」

「いいえ。そんなことはありません!」

「残してもいいんだよ?」

「だめです。エフィーがせっかく作ってくれたのに」


一心不乱に食べようとするドロシアの様子を見て、オーガストは苦笑しながら近づいてきた。


「ドロシア。そのパン、良かったら少しくれないか?」

「え? ……ええ」


食べきれずにいたパンを渡すと、オーガストはそのまま窓辺に寄った。


「見ててごらん」


そして細かくちぎったパンを空に投げる。


「あ、何を」


ドロシアは驚いて窓から顔を出したが、空を旋回していた鳥がキャッチしたのを見て目を丸くした。


「すごいわ! 空中で食べた!」

「落ちれば猫たちが食べるよ。ほら、ドロシアからのプレゼントだ」


オーガストはパンを次々小さくちぎっては投げるを繰り返す。


「ほら、これでもったいなくないだろう?」

「……オーガスト様」

「食事を終えたら散歩でもしておいで」


ぽんと頭を撫で、オーガストは席に戻る。ドロシアは胸がドキドキして動けなかった。

子ども扱いされている、と思っていた動作が、今はなんとなく嬉しく感じる。
訳の分からないことも多いけれど、少なくともドロシアに対してオーガストはこれでもかと言うくらい優しいのだ。

< 61 / 206 >

この作品をシェア

pagetop