伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
目の前のオーガストは、皿に乗った食事をほぼ食べ終えてしまっている。フォークとナイフの扱いはさすが上位貴族だけあって丁寧で、食べ終えた皿もきれいなものだ。くぼんだ瞳はドロシアを映し、見られているこちらがきゅっとなるほど優しい顔で微笑む。
ドロシアは胸が詰まって来て、食事のパンがうまく喉を通らない。
「どうした? 口に合わなかったかな?」
「いいえ。そんなことはありません!」
「残してもいいんだよ?」
「だめです。エフィーがせっかく作ってくれたのに」
一心不乱に食べようとするドロシアの様子を見て、オーガストは苦笑しながら近づいてきた。
「ドロシア。そのパン、良かったら少しくれないか?」
「え? ……ええ」
食べきれずにいたパンを渡すと、オーガストはそのまま窓辺に寄った。
「見ててごらん」
そして細かくちぎったパンを空に投げる。
「あ、何を」
ドロシアは驚いて窓から顔を出したが、空を旋回していた鳥がキャッチしたのを見て目を丸くした。
「すごいわ! 空中で食べた!」
「落ちれば猫たちが食べるよ。ほら、ドロシアからのプレゼントだ」
オーガストはパンを次々小さくちぎっては投げるを繰り返す。
「ほら、これでもったいなくないだろう?」
「……オーガスト様」
「食事を終えたら散歩でもしておいで」
ぽんと頭を撫で、オーガストは席に戻る。ドロシアは胸がドキドキして動けなかった。
子ども扱いされている、と思っていた動作が、今はなんとなく嬉しく感じる。
訳の分からないことも多いけれど、少なくともドロシアに対してオーガストはこれでもかと言うくらい優しいのだ。