伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「……オーガスト様も一緒にお散歩してくれませんか?」
「ごめん。仕事があるんだ。退屈ならチェスターを誘うといいよ」
「そうですか」
帰りたくない、とドロシアは思い始めていた。
彼に恋をするのはとても簡単なように思えたのだ。いやもう、恋に落ちているのかもしれないとさえ思うほどに。
メルヴィル男爵家の財政が怪しくなってきたのは、ドロシアが社交界デビューをして間もなくで、結局夜会に出席したのも数えるほどだ。
だからドロシアは家族以外の男性とはあまり話したことがない。恋愛の駆け引きなど分からないし、どんな気持ちが恋なのかもよくわからない。
たった数日のうちに、オーガストに対する感情はめまぐるしく変わっていく。
最初は不信感、次に期待からの幻滅。そして今は……。
(なんだか一緒にいると嬉しい)
勿論、昨日のマクドネル子爵に対する態度を見てれば怖いような気もするが、一貫してドロシアには穏やかで優しいのだ。秘密が何なのか分からないが、今ならその秘密も受け入れられる気がする。
(言ってみようか。秘密を教えてくださいと)
だがそれは、自分が世継ぎを産みます、と言っているのと同じことで、親愛のキス以外のキスをしたこともないドロシアには少しばかり敷居が高い。
「……? なんだい?」
じっと見つめていると、視線に気づいたオーガストがにこりと笑う。
それだけで顔が熱くなってきて、「なんでもありません。ごちそうさまでした!」とドロシアは部屋から逃げ出した。