伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
「全てが片付いた後で、僕たちはどう生きるか話し合った。復讐を願った人もいたけどね。僕は生き延びることを選んだ」
「どうして? オーガスト様は悔しくはなかったんですか? お父様やお母様を殺されて、復讐したいとは思わなかったの?」
「……憎しみをずっと心に抱えているのは、僕には向いていないよ。母が命をかけてまでしたまじないは、僕を生き延びさせるためだろうし。きっと復讐を望んではいない。……今となっては僕を殺そうとした軍人ももうこの世にはいないしね」
「あ……」
百年生きるというのはそういうことか。
誰にでも降りかかる死という裁き。
ゆっくりとそれを待った彼はどんな気持ちだったのだろう。
「ごめん、話がそれたね。とにかくノーベリー伯爵位を継いだ僕は、残った魔女の仲間や使い魔たちとここでひっそりと暮らすことにした。幸い、父は大半の利益を投資の仕事から得ていた。それを受け継ぐことで、生活には困らなかったんだ。使用人たちも今までと変わらず雇えた。しかし、生活しているうちに気付いたんだ。自分が元通りの体になったわけじゃないってことに。それが、君がさっき見た猫化だよ」
「……お母さまの使い魔という猫の命をもらったからですか?」
猫に九生あり、という言葉は確かにある。それは文字通り、猫には沢山の命があって、九回も生まれ変わることができるという意味だが、一般的には、身を隠した猫がふらりと現れたりすることから言われた迷信だととらえられている。
「そうなんだと思う。原理は僕自身分からないんだ。ただ、肉体的・精神的なダメージを受けると、僕は人の形を保っていられなくなるらしい。どちらが本当の姿なのかは自分でも分からないんだよ」
オーガストが困ったように頭をかいた。
だとしたらさっき猫化したのはどうしてだったんだろう。
(私と別れるのが、ダメージだったりした?)
壮絶な話を聞いているのに、そんなことを考えて胸をときめかせてしまったドロシアは、バツが悪くて俯いた。