伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
それを聞いて、オーガストがほっとしたように口もとを緩め、ドロシアの左手の薬指をぺろりと舐めた。
「指輪は、今度作ってあげる」
「……嬉しいです、オーガスト様」
ドロシアの目に自然に涙が浮かんできた。
猫のオーガストを持ち上げ、毛むくじゃらのその唇に軽いキスをする。
「うわあ、ドロシア」
「猫のオーガスト様も人間のオーガスト様も、大切な私の夫です」
「……僕は今、人間に戻れないのが、心底悔しいよ」
尻尾をしゅんと垂らして、恨めしそうにオーガストが言った。その顔がおかしくて、ドロシアはおなかの底から笑ってしまった。
それからしばらく、オーガストとドロシアは仲良く話をしていた。そしてふと、オーガストが三角の耳をピクピクと揺らす。
「……誰か来た」
「え?」
「馬車の音がするんだ。デイモンが帰ってきたかな。仕事の伝達を頼んでいたんだ。港のほうまで行っていたから、一週間ぶりの帰宅だ。ドロシアはまだ会ったことがないだろう。おいで、紹介するよ」
「はあ」
「デイモンはチェスターの父親なんだ。とても優秀な男だよ。僕がちょうど今の生に変わったころに、チェスターの母と出会ってこの屋敷にやって来たんだ」
「……外部の方なんですか?」
「ああ。猫化には驚いていたようだったけど、この秘密を守ると誓ってくれた。彼は外のことに精通しているから、僕としても非常に助かったんだ。だから、外部との折衝や王都に向かうときには必ずついていってもらっている」
「そうなんですか。……お味方なんですね」
「ああ。おいでドロシア」