伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます
猫のオーガストは軽やかなステップで元来た道を歩く。途中、木陰から黒猫のアールがでてきて、「なーん、なん」と一声鳴いた。
「分かっているよ。アール。デイモンだろ? ドロシアを見せたいんだ」
「なーん」
頷いて、アールは再び物陰に入っていく。
「なんて言っていたんですか?」
「『別に急いで戻らなくても、身内だからチェスターに任せておけばいい』ってさ」
当然のように通訳してくれる。たしかにオーガストは全ての猫と会話できているようだ。
屋敷の前には、オーガストが言った通り小さめの馬車が停まっていて、ちょうど男性が降りるところだった。
玄関からはチェスターが出てきて、「父上、お帰りなさいませ」と顔を綻ばせた。
デイモンは壮年の男性で、オーガストより年配に見える。背丈はチェスターと同じくらいで、彼と同じ金髪を後ろに流してまとめていた。チェスターがやせ型なのに対し、筋肉質でごつごつしている。鋭い視線をチェスターに送ると、書類の入ったカバンを渡し、凝った肩を自らほぐす仕草をした。
「変わりはないか? チェスター。旦那様は?」
「そちらです」
チェスターの手がドロシア達のほうを指す。それに合わせてデイモンが姿勢を正してこちらを向いた。
彼は、オーガストが猫化した状態で出歩いていることと、その隣に女性がいることに驚いたようで、面白いくらい目を丸くした。