伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

チェスターがそう言って場を離れ、図らずもデイモンと二人きりになったドロシアは、緊張で言葉が出なくなってしまった。
固まった空気というのは相手にも伝わるもので、デイモンからも先ほどの快活さが消え、言葉少なになる。
やがて応接室に入ったところで、促されてドロシアはソファに腰かけた。そして、向かいに座ったデイモンが、内緒話をするように声を潜めて話し出した。


「ドロシア様、……とお呼びしてかまいませんか? ようこそノーベリー伯爵家へ。驚きましたよ。まさか猫のオーガスト様とあれほど親しげにしておられるとは」

「さきほど、ようやく秘密を教えていただけたところなんです」


デイモンが会話の糸口を見つけ出してくれたことにほっとして顔を綻ばせたものの、続くデイモンの言葉にドロシアの顔は再びこわばった。


「本気で猫の花嫁になる気がおありですか?」


胸をざらついたやすりかなにかで撫でられたような感覚がした。
けれど、デイモンはオーガストの腹心の部下だ。仲を損ねるようなこともできない。
出来るだけぎこちなくならないように気を付けて、ドロシアは口角を上にあげた。


「猫の花嫁になったつもりはありません。私はオーガスト様の花嫁です。その彼が時々猫になってしまうというだけの話ですわ」

「ほう」


デイモンは感心したように頷き、顎に手を当てる。彼から注がれる視線が好意なのか好奇なのか、ドロシアには判断がつかなかった。
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