伯爵夫妻の甘い秘めごと 政略結婚ですが、猫かわいがりされてます

「チェスター。私は別に落ち込んではいないわよ。お仕事の話ですもの。私が聞く話じゃないんでしょう?」


そう言ったドロシアに、チェスターはホッとしたように微笑んだ。


「ドロシア様、以前マクドネル子爵が来られた時のこと覚えてますか?」

「ええ」

「オーガスト様は、魔女たちの魔法や、自身の猫化を知られることを恐れています。領土に人を入れたがらないのはそのためです。だからこそ、招待客以外にはあんな冷たい対応を取ります。ですが、あの時はそれで猫化してしまって大変でした」

「猫化? どうしてですか?」


チェスターは目を細めて歩く先を見る。


「疲れてしまうんでしょうね。……お優しい方ですから。人を傷つける言葉を吐いて、自分が傷つくような方なんです」


チェスターが主人を気遣っているのが、手に取るように伝わってくる。そして、今ならば、ドロシアにもわかる気がする。オーガストは優しすぎるのだ。


「どうか、オーガスト様を助けて差し上げてください」


深々とチェスターに頭を下げられて、ドロシアは「やだ、頭なんか下げないで」と慌てた。


「私は、ただオーガスト様と一緒にいたいと思っただけ。……それより、チェスターたちこそ、オーガスト様を守っていてくれてありがとう」

「守られているのは僕たちのほうですよ。この屋敷は、僕らを守るために残されているようなものだ」

「ううん。オーガスト様は優しいから、誰かのためにでなければ幸せにはなれない気がするわ」

「そうか。そうですね」


オーガストの猫化を秘密にするには使用人が不可欠だし、使用人の魔女たちが生きていく場所もここしかない。依存のような関係だが、根底にはチェスターのような純粋にオーガストを心配する気持ちがあるのだ。


(私も、一緒に守っていこう)


彼の大切なものを自分も守っていく。ふたり、手を取り合って、同じものを見つめていくのだ。
それはドロシアの理想の夫婦像であり、目標でもある。


(オーガスト様となら、きっとできるわ。私)


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