強引専務の身代わりフィアンセ
 ロビー横のカフェテラスは開放的な空間になっていて、赤い絨毯の上に白いクロスのかかったテーブルが並んでいる。午後の時間はアフタヌーンティーサービスを行っているらしい。

 十五時五分前にロビーについた私はエレベーターを降りて、きょろきょろと辺りを見渡した。そしてカフェテラスの入り口から少し離れた柱のところで一樹さんが立っているのを発見する。

 その隣には眼鏡をかけて、スーツ姿の桐生さんもいた。男性ふたりに使う表現ではないかもしれないが、なかなか絵になる。あそこだけ空気が違うというか。とにかく間に合ってよかった。

 ふたりはなにやら談笑しているが、カフェには入らないのだろうか。そんな疑問を抱きながらも、場所が場所なだけに、ゆっくりとふたりに近づく。

 すると、ふたりの視線が同時に同じ方向に向いた。私とは反対の方向へ。

 どうして?

 私は金縛りにでもあったかのように、その場から動けなくなる。笑顔でふたりに駆け寄ってきたのは、若い女性だった。

 美弥さん?

 会ったことはないけど、すぐに誰だか認識した。写真でしか見たことはないけど、その姿は目に焼き付いている。

 絹のようにまっすぐでサラサラの髪はモデルみたいで、甘さのある大きな瞳は、今は嬉しそうに細められている。

 そして、その顔は一樹さんに向けられていた。今、彼がどんな顔を美弥さんの方に向けているのかは、ここからはわからない。でも、想像もしたくない。

 三人はそのままカフェテラスに向かっていく。いつのまにか金縛りは解けていて、呆然としながら私は静かに踵を返した。
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