強引専務の身代わりフィアンセ
 ついでに美弥は、本当に好きになることができた人がいる、と美和に話していた。

『また時間を作るので、せっかくですし、改めてふたりでお話ししましょう!』

 最後はふたりで会う約束まで取り付けていた。敏くて何枚も上手な兄を持つと大変だな、と心なしか同情する。絶対に今回の俺と美和の件にしろ、妹の相手とのことについても幹弥は情報を得ているに違いない。

 そんなわけで三人になってからの開口一番の幹弥の発言だった。幹弥は、わざとらしく美和の方に身を乗り出してくる。その所作ひとつとっても、こいつがすると下品にならないのが憎らしいところだ。

「美和ちゃん、もうこの際だから言っちゃうけどね、一樹くんってば、初恋に戸惑う中学生かってノリで君のことが忘れられなくてね。なのに、この朴念仁ときたら、全然自分の気持ちを自覚しないものだからさー」

 この際じゃなくても言ってただろ、と口にするか迷ったところで、隣に座っている美和がこちらに視線を寄越してきた。どうも気まずくなり、俺はわざとらしくカップに口つける。おかげで幹弥の勢いは止まらない。

「真面目というか馬鹿というか。そんなので俺が美和ちゃんの仕事もあって、この代役の話を提案したんだよ。美和ちゃんには悪いんだけど、冗談半分でね。そしたらこの男、本当に行動に移しちゃうんだからさー」

「冗談だったのか」

 今更の事実に、俺は幹弥の方を見た。すると幹弥はおかしそうに美和に笑いかける。

「ね、一樹くんは仕事ができるけど、恋愛については、今まで追いかけたことなんてないからこんな調子だよ」

 その指摘を否定することはできなかったので、別の方面から攻めてみることにする。

「お前は人のこと言えるのか?」

「俺のことはいいんだって」

 さらっと自分のことを流した幹弥は、あれこれと美和に今回の件を語りかけている。俺は長く息を吐いて肩を落とした。

 でも今回ばかりは幹弥に感謝せざるをえない。冗談だとしても、こいつの提案がなければ俺は彼女をこうして手に入れることはできなかっただろうから。
< 162 / 175 >

この作品をシェア

pagetop