強引専務の身代わりフィアンセ
『婚約者を連れてみて、どう? 美和ちゃんに笑ってもらえたー?』

『笑うどころか、暴言吐いて傷つけた』

 前振りもなく本題から入る幹弥に端的に告げると、さすがに電話の向こうで慌てはじめた。

『え、ちょっと、なに言ったわけ?』

 渋々、先ほどまでのやりとりを告げると、幹弥は電話口でこれでもかというくらい大きなため息をついた。

『だから言ったじゃん。一樹くんの気はきっと晴れないって。向こうはプロだよ? 私情を挟まず、こちらの依頼をこなしてくれているわけなんだから、感謝こそすれ暴言なんてさー』

『わかってる』

 俺はおとなしく肯定した。そう、頭では理解している。けれど感情がついてこない。

『なら、どうしてそんな気持ちになるのか、改めて考えてみたら? ちなみに俺は絶対に嫌だけどね。仕事として優しくされたり、笑いかけられるのなんて。ましてやほかの男にも、なんて想像したら反吐が出る』

 幹弥は低い声で辛辣に吐き捨てた。けれど、すぐにいつもの調子に戻る。

『でも、そんな気持ちになるのは、世界中でただひとりだけだよ。一樹くんはどうなの? あれこれ複雑に考えず、自分の欲望に正直になってみたら?』

『そこは自分の気持ち、じゃないのか?』

『同じだよ。結局は、ね』

 電話を切った後、とりあえず俺は謝罪しようと、彼女のいる部屋に足を向けた。俺はどうしたいのか。とにかく俺は彼女に――
< 171 / 175 >

この作品をシェア

pagetop