強引専務の身代わりフィアンセ
 そこで、ふと俺は我に返る。幹弥にそろそろ行こうか、と声をかけられ店をあとにすることになった。気づけばここにきて、二時間が経とうとしている。

「じゃぁね、美和ちゃん。一樹くんも、せっかくのふたりの時間を邪魔してごめんね」

「そう思うなら、頻繁に呼び出すのはやめろ」

「はいはい、またねー」

 店を出て幹弥を見送り、俺はなんともいえない疲労感に襲われた。

「今日は悪かったな」

 この台詞は前にも口にしたことがある。まったく似たようなシチュエーションでだ。けれど、あのときとは違って隣にいる彼女は笑顔だった。

「いーえ。桐生さんのお話、とっても楽しかったですし、美弥さんとお会いできたのも嬉しかったです」

「あいつ、なにを話してたんだ?」

「一樹さん、全然聞いてなかったんですね」

 おかしそうに笑う彼女に、俺はなにも言えない。その通りだからだ。

 もう時間的には夕方だというのに、暑さを伴う日差しに顔をしかめ、どちらともなく歩き出す。車を停めているところまで少し距離があり、影に入ったところで彼女は口を開いた。

「一樹さんは、欲しいものをちゃんと手に入れちゃう人なんだって。私もすっかり奪われちゃいました」

 おどけて言って見せる美和に、俺は幹弥との会話を思い出した。
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