強引専務の身代わりフィアンセ
「専務は、なにをなさりたいんですか?」

「そうだな、とりあえず笑ってみてくれないか?」

「はいっ!?」

 彼の真意がまったく読めない。なにこれ。冗談? 新手の嫌がらせ? うちはスマイルゼロ円はしていないんだけど。 

「ティエルナにはいくらもらったんだ?」

「は?」

 さらなる質問に、私は相手が専務ということも忘れて素で返した。けれど彼はどこまでも冷静だ。

「あれだけ義理立てするくらいなんだから、相当な額をもらってるんだろ?」

 その声にはかすかに軽蔑の色が込められていて、私は下唇をぎゅっと噛みしめた。

「専務には関係ありませんよ」

 精一杯の低い声で言い捨て、私は立ち上がってその場を去ろうとした。しかし専務の発言がそれを阻む。

「あるさ。俺は君を買いにきたんだから、金額は知っておきたい」

 今度は目を瞬かせながら専務を見下ろす。彼はゆっくりと顔を上げて私の顔をはっきりと見てきた。

「ここは芸能事務所でもあり、代行業もしてくれるって聞いたんだが」

「そう、ですけど……」

 嘘を吐くわけにもいかず、仕事のことを言われると、自分の判断で無下にすることもできなかった。まさかMILDも同じようにエキストラを雇いたいのだろうか。

 コーヒーができたのか、かすかにいい香りが部屋に漂ってくる。そういえば、夕飯もまだ食べていなかった。

 専務に断りを入れてから、せっかくなのでコーヒーを淹れることにする。こうなったら来客用のお菓子をつまもう。それくらいしたってばちは当たらないはずだ。

 仕事と聞いて、変な話、私の気持ちは幾分か楽になり、冷静さを取り戻すことができた。
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