強引専務の身代わりフィアンセ
 自分の中で戸惑う感情に懸命に理由をつける。それから専務と会話らしい会話はできず、車はどこかのビルの立体駐車場に入った。

 厳しい日差しが遮断されたことで、無意識に腕をさする。そこでようやく隣に顔を向けた。

「あの、専務」

「一樹」

 間髪を入れずに、訂正するかのごとく専務が自分の名をかぶせてきた。

「婚約者なんだから役職呼びはなし。そういう話だろ、美和」

 名前を呼ばれたことで、照れよりも緊張の方が増す。ここには彼の婚約者としてやってきたのだ。私は一度唇を強く噛みしめた。切り替えろ。

「わかりました、一樹さん」

 仕事仕様の笑みを浮かべ、私たちは車を降りた。やって来たのはホテルも入っている高層ビルで、百貨店のようなところをイメージしていた私はちょっと拍子抜けしてしまう。

 ただ、中に一歩踏み入れると、全体的に高級感溢れ、間違っても私が気軽に来られるようなところではないのがひしひしと伝わってくる。さっきとは違う意味で肩に力が入った。

 専務に案内されてやってきたフロアには、いくつものセレクトショップが並んでいた。ひとつひとつの店舗はそんなに大きくはないが、どれも海外のメーカーのものだ。

 この階には海外の有名ブランド店が入っていて、日本でここにしか存在しないお店もあるんだとか。その中のひとつに専務は足を進めて、綺麗な女性店員に声をかけている。

 知らないブランドだが、それなりのお値段がするのは容易に想像がついた。暖色系のライトで店内は照らされ、緩やかなクラシックが流れている。
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