強引専務の身代わりフィアンセ
「っ、駄目です。婚約者とはいっても、こういうのは契約に含まれていません。そもそもなんなんですか、さっきからこの体勢は」

 専務の胸に手を当てて、距離を取ろうとするも、回された腕が許してくれず、びくともしない。むしろ逃げないようにと強く抱きしめられる。

「含まれてなくてかまわない」

「だったら」

 言い返そうとして、そこで専務の強い眼差しが私を捕えた。額同士がくっつくほどの近さに私は息を呑む。

「言っただろ、気を許してくれないかって。契約とか関係なく、美和が個人的に」

 なんで専務はそこまで私にこだわるんだろう。私は美弥さんの代わりなのに。私の婚約者としての演技は、そんなに気を許していないように感じるの? だから、こんなにも必死なんだろうか。

「……気を許したらどうなりますか?」

 たくさん浮かぶ疑問は声にはならず、私が聞けたのはそれだけだった。深い瞳の色に吸い込まれそうだ。そんな私に対し、専務はにっと口角を上げて笑った。

「思う存分甘やかしてやる。仕事だって忘れるほどに」

 そう言って、自然とさらに距離を詰められる。このあとの展開なんて予想するまでもない。抵抗しなければ、と思うのに、私は目を開けたまま、金縛りにでもあったかのように動くことができない。

「っや!」

 けれど、専務がそっと私の頬に手を添えた瞬間、私は反射的に声をあげた。専務がわずかに距離を取り、目を見開いている。私は慌てて自分の手で両耳を覆った。
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