元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「恥ずかしいが、私の娘だ。きみには助けられた。礼を言う」
と言いながら、にこりともしない父上。愛想笑いさえしないのは、私が原因だろう。
「美しく、勇気のあるお嬢さんですね」
アンバーの瞳を細め、ヴェルナー元帥が私に微笑みかける。視線が合うと、胸がピストルで撃たれたようにビクンと跳ね上がった気がした。
美しいだなんて、生まれて初めて言われた……。
「お世辞は結構です。ル……いやエルザ、お前はもう帰りなさい」
ぐいと私の手を引く父上。
さっきは皇帝陛下のためにもう少しいるように命令したくせに。反感を覚えるけど、変に注目を集めてしまった以上、ここは退散するしかなさそう。
「あの……」
最後にヴェルナー氏に何か言わなければならないような気がした。そうだ、お礼を言わなきゃ。望んでいなかったとはいえ、私を守ってくれたことには変わりないんだから。
だけど父上に強い力で引きずられ、何も言うことができない。
なんとか元帥の方を振り返る私の方に、彼は一歩踏み出す。その顔には、もう笑みは浮かんでいなかった。
「お嬢さん、またどこかで」