元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
昼間のうちに膨大な仕事を終えて、すっかり日が暮れたあと、私はとある酒場へ向かった。
モンテルカストの街は本国の首都よりもずっと開放的で、建物も素朴で温かみを感じる。華麗さを売りにしている貴族の館が立ち並ぶアルバトゥスとは全く違う趣だ。
レンガが敷き詰められた地面を通り、酒場の近くまで来ただけで、既にどんちゃん騒ぎしている声が聞こえた。
古びた木の扉を開くと、ぎいいと錆びた蝶番がきしむ音がした。店の中では兵士たちが軍服のまま宴会を楽しんでいる。
「あーあ……」
前から思ってたけど、ヴェルナー艦隊って危機感が薄いんじゃない? ここでもし敵襲があったらどうするつもりなんだろう。
補給地として有名なモンテルカストに敵兵が紛れ込んで攻撃の機会をうかがっていてもおかしくはないと思うんだけど。
「おうルカ、こっち来いよ!」
中央のテーブルで、レオンハルト様とベルツ参謀、ライナーさんとアドルフさんがビールの入ったジョッキを持っていた。
大きな店だけど、艦隊全ての人数を収容するのには無理がある。旗艦だけでも二百人、艦隊すべて合わせたら二千人にはなるだろう。
ここにいるのは旗艦に乗っていたお馴染みのメンバーばかりみたい。お祭り騒ぎする兵士の合間を縫い、なんとか呼ばれたテーブルまでたどり着いた。