元帥閣下は勲章よりも男装花嫁を所望する
「なんの騒ぎですか、これは」
立ったまま尋ねると、ライナーさんがジョッキの中身を飲み干して言う。
「一昨日の戦いに勝った祝いに決まっているじゃないか」
「ええ? まだひとつの戦いに勝っただけじゃないですか。これからも戦いは続くんですよ」
先日我が艦隊が敗北に追い込んだのは敵の一部であって、これからの戦いの方が熾烈を極めることは兵士の誰もが言わなくてもわかっているはず。
我が国の海軍も、ヴェルナー艦隊以外の艦隊をそろえると二万人はゆうに超える。他の艦隊も順にアルバトゥスから出航し、エカベトへ向かっているという。
「だからだよ。いつ死ぬかわからない身だ。生きているうちに楽しまないと」
レオンハルト様がジョッキを傾けてそんなことを。提督がこういう考えだから、艦隊全体がお気楽になってしまうのか。
「そうそう。今夜は外泊解禁だから、素敵な女性がいたら一夜を共にするんだよ、ルカ。この世に後悔を残しちゃいけない」
アドルフさんが、出航前にも聞いたようなセリフをもっともらしく語る。
航海の前に後悔を残すなって? 面白くないわ。
「略奪と暴行以外なら、自由にしろ。ただし、節度を守ってな」
「そう来なくちゃ!」
艦体随一の砲手であるライナーさんは、戦いの前よりも体じゅうにやる気をみなぎらせ、ジョッキを置くと勢いよくその場から去った。
かと思うと、ところどころで兵士にお酒を汲んでくれているお店の女の子たちに遠慮なく声をかけている。