無慈悲な部長に甘く求愛されてます

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 今日は午後イチで経営会議が開かれる。それはつまり、営業部の島が騒がしくなることと同義だった。

 管理職のいないフロアで、池崎さんがいつも以上にヒートアップしている。

「ほんとだって!笑ったんだよ、あの鬼部長が!」
「池崎先輩、夢でも見たんじゃないですかあ?」
「あれが夢であってたまるかよ。もう満面の笑みでさ!こわかったよ」
「へえ、鬼の目にも涙じゃなくて笑みですか」
「今度俺にも笑いかけてくれないかなー」
「やめとけ!死ぬほどこわいぞ!」

 彼らのやりとりを聞きながら、私は小さく笑ってしまう。

 なんだかちょっと違う気もするけれど、少しずつ、こうやって鬼上司のイメージが変わっていくといいな、と思っていると、

「冴島部長が笑ってるの、見たことあるよ」

 突然口を挟んだのは、私の正面に座る松田先輩だった。

「宅配弁当のおばちゃんと世間話しながら、普通に笑ってたし」

「松田!本当か!」

「冴島部長だって人間なんだから、普通に笑うでしょ」

 鷹揚に笑いながら、松田先輩は思いがけないことを言う。

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