クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
 玄関のドアが閉まったところで私は決めていた言葉をすぐに口にする。

「ここでいい。早く話して」

 話は聞くけれど、家に上がるつもりはない。幹弥は顔に苛立ちを浮かべて、こちらをじっと見下ろしてくる。お互い目を逸らさないまま、耳鳴りがするような沈黙がその場に降りた。

 先の動いたのは幹弥で、突然、私の腕を自分の方に引く。あまりの不意打ち具合に私はよろけそうになりながら、彼との距離を詰めると甘い香りが鼻孔をくすぐった。

 すぐに一緒にいた彼女のものだと気づき、瞬時に顔をしかめる。

「煙草くさい」

 けれど、彼から放たれた言葉に私は目を見張った。見上げれば、幹弥は心底不快だという顔をしている。

「人にはやめて欲しいって言っておいて、彼には許すわけだ」

 口角を上げて笑う顔は綺麗だけれど、冷たくて。見ていられなくなり、私は顔を背けた。

「そんなことで、腹を立てるなんて心狭いね。べつにこれからいくらでも好きに吸えば?」

 そういえば、あれから幹弥が私の前で煙草を吸っている姿を見たことがない。元々あまり吸わないみたいだったから気に留めていなかったけれど、もしかしたら私に気を使っていたのかもしれない。

 自分には我慢させて、一馬には許したから? でも、私の言うことなんて今みたいに無視すればいい。私のいないところで、彼女の前で吸えばいいのに。

 考えを巡らせていたところで、いきなり体が宙に浮いたので私の心臓は大きく跳ねた。幹弥がひょいっと荷物のように私を抱え上げたかと思うと、そのまま部屋の中へ歩み出したのだ。
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