クールな御曹司の蜜愛ジェラシー
「幹弥の優しさって、私だけ有料なんだ」

 刺を含ませた言い方に、彼がわずかに目を見張った。こんな言い方しなくても、と思ったけれど、本心だった。

 だって、これがもしほかの人なら、たとえば山下さんならきっと幹弥は見返りを求めることなく、嫌な顔ひとつせずに教えてあげたに違いない。

 けれど、すぐに思い直す。当たり前だ。彼女と私なら扱いに差があったって無理はない。私はパソコンをしまいながら告げる。

「で、でも、ありがとう。困ってたから助かったよ。これでできそうな気がする。ちゃんと、なにかお礼でも」

 『するね』と付け足そうとしたところで、前触れもなく右肩に手を置かれ、軽く押される。彼の方を見れば、その顔には、からかうような表情は消え、怖いくらいの真剣さを帯びていた。

「そうだね、優姫だけだよ」

 彼の声が音になって、耳に届いたのとほぼ同時だった。唇に今まで体験したことがないような柔らかい感触と温もりを感じる。

 けれどそれはほんの一瞬で、近すぎて捉えられなかった幹弥の整った顔が瞳に映ったときも、私は目を開けて固まったままだった。ややあって徐々に脳が動き出す。

「え、え?」

 間抜けにも混乱のさなか、私が声に出せたのはそれだけだった。対する幹弥は、いつもの余裕のある表情だ。

「意外。もっと狼狽えるかと思ったら」

 そこで私の体温が急上昇する。そして無意識に両手で自分の唇を覆った。今更ながら乱れる呼吸と鼓動を落ち着かせようと躍起になる。

「どう、して?」

 両手で口を押さえているのでくぐもった声になったけれど、距離も距離だけに彼には伝わったらしい。
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